檸檬(ヤマメ・アマゴ調査釣行紀8)
6月下旬。
まだまだ暑さが今みたいにひどくなかった週末。
今シーズン取り組んでいる小丸川の在来ヤマメに関する調査プロジェクトのローラー作戦を行いました。
この日は4チーム、合計8人で朝からそれぞれ別の谷へと突入。
この日、私のパートナーはパタゴニア福岡から来てくれた板倉さん。去年開催されたトークイベントをはじめ、ここ数年何回もお互い行き来するようになり、すっかり旧知の仲のような間柄になりました。
そんな彼に対して事前に、「小丸川でどんなヤマメが見たいですか?」と尋ねたところ、
「あのグチャグチャなパーマークのヤマメが見てみたいですね!」との返事。
ただ、その谷は既に調査は終わっていたので、となりのいかにも怪しげな谷をチョイスしての釣行。
例によって例のごとく、道なき道を汗びっしょりになりながらやっとたどり着いた先ですぐに野性味あふれるヤマメに出会うことが出来ました。
小さく、不規則で丸いパーマーク、尻ビレや尾ビレの先には鮮やかな朱色やオレンジが放射線状にちりばめられ、
身体のサイズの割に大きな背ビレには黒点がそのナワバリを拡大しつつありました。
こんなヤマメたちに何匹か出会えたのですが、、、
いかんせん道が悪すぎました。
4つ5つ滝を高巻きした後でついに危険なポイントに差し掛かり、遡行を断念。
時間はまだ10時半。何とも中途半端な感じだったのですが、やっぱりここは安全第一。わざわざ福岡から来てくれた彼にもう少しイージーで、でも特徴的なパーマークのヤマメがいる谷にガイドすることにしました。
2人してフウフウ言いながら脱渓。その後数十分かけて車で移動。時間はちょうどお昼。お湯を沸かしてカップラーメンでも、と思い準備していたその時。
「とりあえず、ご飯の準備するから、その間釣っててくださいよ。」
と私。
「ありがとうございます。って、えっ、え・・・?」
「ん?どうしたんですか?」
「・・・すみません。やらかしました。」
「???何を?」
「リールを忘れてきたみたいです。」
「えーっ!?どこに?」
「さっきの谷の最後のポイントです。。。」
「ゲッ!?」
そして2時間後。
2人は再びさっき脱渓したポイントの上に立っていました。
毎年毎年、色んな源流域に行っていますが、1日の内に1つの谷を2往復したのはもちろん初めて。
まぁでも、こんな体験もめったに出来ることじゃない。多分、午前中が中途半端に終わったから川の神さまが呼び戻してくれたんだろう。そんな感じに考えてこの状況を楽しむことにしました。
急斜面の上から眺めていると、さっきのポイントにたどり着いた板倉さんの手元にキラキラ輝くものが見えます。どうやらリールはあったみたい。
太ももを押さえながらグロッキー状態で上がってくる彼をニヤニヤしながら激写。
かくして無事に戻ってきたシマノのカーディフ。そのたたずまいは主(あるじ)の元で喜んでいるようにも見えました。
そして、ここはやっぱり川の神さまのおぼしめしに従わないといけません。
「もうちょっと上流まで行きましょう!」
と誘い、安全に帰れる時間ギリギリまで釣り上がることに。
美しい流れ、豊かな原生林と少しの藪漕ぎ。そんなのちに小さなポイントで出会えた小さな1尾。
サイズがそれほどでもないことは掛かった瞬間に分かりました。ただ、寄せてきた時に見えたその輝き。
「黄色い!きいろい!この子黄色いよ!」
と思わず絶叫したのを覚えています。
全てのヒレ、目の周りには濃く、そして身体全体にはうっすらとしたレモン色。遺伝子タイプとかそういったものを抜きにして、ただひたすらその色彩に見とれてしまいました。
残り時間があまりないのは分かっていましたが、ランディングネットの上で、アクリルケースの中で、しばらく撮影に付き合ってもらいました。こんな色彩を見たのはもちろん初めて。
その後しばらくしてタイムアップ。魚止めまで詰めることは出来ませんでしたが、この1匹を見ることが出来ただけで十分満足。これもリールを置いてきてくれたお陰だったのかもしれません。
そういえば今見返してみると、このヤマメの色彩とリールのカラー、何となく似ているような気がしないでもありません。
そして夜。倶楽部が誇るチャイニーズシェフ?のスージーが徹夜で仕込んでくれた料理を皆で堪能。
レモン色は甘酸っぱい青春の・・・なんて言うとおじさんチックな表現かもしれませんが、なんにせよちょっとしたトラブルのお陰で素敵な思い出をもらうことが出来た1日。
またいつかきっと会いに行こう。そんな気持ちにさせられる出会いでした。
※この調査は、パタゴニア環境助成金プログラムの一環として行われました。
(文・写真 KUMOJI)
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