古代からの伝言(ヤマメ・アマゴ調査釣行紀6)
この谷特有だというパーマークの配列。
上から下へと流れ、斜めに引っ張られて繋がるそれはまるで古代メソポタミア文明のシュメール文字(楔(くさび)形文字)のようで、何かしら意味ありげに語りかけてくるようでもありました。
輝く山吹色をベースに、オレンジ、黄色、身体を傾けると見える紫色を放つ彼が透明な水の中でユラユラと漂う様子を見ていると、古(いにしえ)の宝物を手にしているような気にさせられます。
同行のメンバーをして、「今まで見たヤマメの中で1番美しいです。」と言わしめたこのデザイン。
それはもしかすると、この小丸川に息づいてきたかげがえのない血統の証(あかし)なのかもしれません。
「ここからこうやって登れば、この辺りに多分キレイな林道があると思うんですよね。」
道に関しては私と同じくらいアバウトなKID。
「うん。分かった分かった。じゃ行こうか。」
ウズウズしてあんまり話しを聞いていない私。
それを聞きながら、
「"多分"? "思う"? ・・・(疑)」
1人、曇り空のようにダークなオーラを放つフジ。
三者三様の朝。
この日漁協の会合があるKIDは私たちをエントリーポイントまで案内し、「がんばってくださーい!」とさわやかな笑顔で見送ってくれました。
果たして、彼の悪い予感は的中。
ガケを登った先には、道とおぼしき跡が何本も交差し、降りては登り、登っては降りの繰り返し。途中には危険な崩落個所もいくつか見られました。
足を1歩踏み外せば大事故になりかねないのが源流釣行。慣れているからといって油断は禁物。
5月下旬、それほど暑くない気候なのに歩き始めて30分もしない内に汗びっしょりの2人。
「KID~!!」
ハアハアと荒い息をしながらうらめしそうにつぶやく声が後ろから何回も聞こえました。
KIDが、「多分40分くらいで着くと思うんですよね~。」と言った入渓ポイントに1時間くらいかけて到着。
汗がひくまでしばらくの間、岩の上に座り込んで周りの豊かな自然を観察。
実は今年4月、私たち米良鹿釣倶楽部はパタゴニア環境助成金プログラムの助成先団体として再び認めていただきました。
今回、その事業の1つに小丸川に生息するヤマメ等の遺伝子解析があります。
連休前くらいから本格的に始めたこの調査。この日も目的はDNAサンプルを採り、その生息状況を確認すること。
釣り開始後すぐ、20センチくらいのヤマメが顔を見せてくれました。
ちゃんといてくれたことにまずは一安心。
ここのヤマメの特徴でしょうか。身体の割に背ビレと胸ビレが大きいような気がします。
そして、グチャっとしてランダムな感じのパーマークはおそらく在来魚の証拠。
腹部に点在する黒点が「マダラ」という九州特有の呼び名にふさわしい1匹。
しかし、それから数匹のサンプルを採取した後、突然パタリと魚の気配がなくなりました。
「え!? KIDに聞いていた魚止め(ヤマメがいなくなる最上流部)はもっと上のはずだけど。」
不安な心持ちで先に進むと、突然目の前に膨大な量の倒木が。
山の白骨死体、とでも言いたくなるようなその壮絶な光景に思わず立ちすくみました。
写真奥の崩落現場から滑り落ちた木々は、見事に川の上におおいかぶさり、水はその下を流れています。
ここから先、ヤマメはいてくれるのか?不安はますます大きくなります。
ところが、崩落現場を越えてしばらくすると再びヤマメたちの姿が。
それでもとても警戒心が強い彼ら。
慎重にアプローチし、立ち位置を決め、1投目でスパッと決めないと2投目以降はほぼ釣れません。この野生魚とのシビアでしびれるような対決が逆に楽しくてたまらないのです。
いつしか晴れ間が谷を照らし、おだやかに輝く新緑の中、
2人でしげしげと彼を眺めながら、興奮まじりにその美しさを色々な言葉に変換し、写真と記憶にとどめようとシャッターを切り続けます。
たかだか20センチちょっとの魚にここまで幸せな気持ちにさせてもらえるなんて。
米良鹿釣倶楽部の目的の1つに「九州固有の渓流魚の保護」というものがあります。
彼らを守るためには、まずは詳しく知らねばなりません。
このパーマークに一体どんな古(いにしえ)からの歴史が秘められているのか、私たちのバトンは研究者の手に渡り、そのルーツを記すDNAを紐解(ひもと)く段階へと移ってゆくのです。
「ねえ、帰りなんだけど、この林道まで上がってみない?」
GPSアプリに写し出される数百メートル上の林道を指さし、フジの顔色をうかがう私。
「確かに朝方の道はもう通りたくないですねぇ。行きましょうか。」
川通しにUターンして帰るのが嫌いな私は、いつも同行者に1日1回は行きと違う道を行かないか、と誘うクセがあります。
そして、長く付き合っている友人からは大抵、NO!と強く断られるのですが、この日は珍しくOKが出ました。
ところがこれがこの日最大のミス。しょっぱなから急こう配でキツい登りは上がれば上がるほど険しくなり、終盤は四つんばいになってまるでヒキガエルのようにモゾモゾと急斜面と格闘する羽目に。しかもそこは細かな砂利とイバラが行く手をはばむ危険でイヤな登り。
やっとの思いで上がった林道にはこれまた危険な崩落がいくつか。
脱渓から約2時間半かけて下の道路に付くと心配したKIDが車で迎えに。
あらためて、安全第一を心がけねばならないことを確認させられました。
昨年までの一ツ瀬川に続き行われる小丸川全域の遺伝子解析調査。
この調査結果で得られた情報を基に、地元の方々と共に、小丸川のヤマメたちを守る活動に尽力してまいります。
※この調査は、パタゴニア環境助成金プログラムの一環として行われました。
(文 KUMOJI・写真 KUMOJI、フジ)
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