渓魚歴史浪漫(3)~ヤマメとヤマトマス~

前回、日本で最も原始的なヤマメ・アマゴ等の遺伝系統(グループA)である「創期ヤマトマス」について説明しましたが、


今回は創期ヤマトマスの中にある3つのグループの中でさらに1番古い種族である「A1」から進化したグループB、「ヤマメ(サクラマス)」と、「A2」から進化したグループC「ヤマトマス」のお話しをさせていただきます。



1 「ヤマメ(サクラマス)」とは?


(図1 出典:鹿児島県自然環境保全協会「Nature of Kagoshima vol.47」2020年 6ページより抜粋)


まず最初にグループBですが、これらの見た目は遺伝学的に見ても私たちが普通に呼んでいる、朱点のない、「ヤマメ」と同じです。

(グループB 朱点のない一般的なヤマメ ※北海道千歳川産)



またその生息域に関しても、いわゆる現在大島ライン(大島線)と呼ばれている範囲とほぼ同じです。


(図2 出典:水産庁・全国内水面漁業協同組合連合会「渓流魚の放流マニュアル」2008年 13ページより抜粋のうえ加筆)


ところが、これには例外もあって、大島ラインでアマゴ域とされている中であってもグループBのヤマメが生息している川があります。


現在分かっている所では、静岡県の大井川、広島県の太田川、大分県の山国川などがそうです。


またこれらの川に生息するヤマメには、いわゆるアマゴ(グループE)より小さく、数も少ないのですが、朱点が存在します。

(グループB 朱点のあるヤマメ ※宮崎県川内川産)



アマゴ域にヤマメがいる川があって、そのヤマメには朱点も少しあって…。

ちょっとややこしいですね。少なくとも遺伝学的に考える時は、大島ラインと、朱点の有無でヤマメ、アマゴと区別することはやめた方がいいかもしれません。


2 「ヤマトマス」とは?


(図3 出典:鹿児島県自然環境保全協会「Nature of Kagoshima vol.47」2020年 6ページより抜粋)


次にグループCです。

グループCは、グループAの総称である「創期ヤマトマス」の「A2」から進化したグループで、その特徴も、生息域もA2そっくりです。


つまり、


・同じ遺伝子タイプの中に朱点のある個体も、ない個体も存在する。


・西南日本の広い範囲に分布するが、主に中央構造線とフォッサマグナ周辺に生息する。


という特徴を持つ個体群なのです。


(グループC 朱点のないヤマトマス ※広島県太田川産)



(グループC 朱点のあるヤマトマス ※和歌山県有田川産)



ところで、ヤマメ・アマゴ等の分布のことを考える際、時々出てくるこの「中央構造線」と「フォッサマグナ」とは一体何なのか。高校~大学で地学を専攻したことのない私にはあまり理解が出来ず、Youtubeやネットなどで色々と調べてみました。


なかなか難しくて、コレ!というものに出会えないのですが、個人的に分かりやすかったのは以下の動画です。

3分15秒あたりから中央構造線とフォッサマグナが出てきます。

(※注:ただし、2011年の東日本大震災をきっかけに行われた国の大規模なボーリング調査により、北海道南部から東北地方にかけては100万年前までそのほとんどが海中に沈んでいたということが明らかになってきました。その点を注意しながらご覧ください。)


これによると、中央構造線とは日本列島がまだ出来る前、今の朝鮮半島あたりの大陸の一部だった所に中国南部あたりからの岩石がプレート活動によってズリズリと押し上げられて出来たものらしいです。


だから、中央構造線の北側と南側では岩石の種類が全く違うとのこと。


つまり、中央構造線とは、南北を山脈にはさまれた「日本最古の巨大なシワ」みたいなイメージでしょうか?


一方、フォッサマグナはラテン語でそのままフォッサ(溝)と、マグナ(巨大な)で「巨大な溝」という意味で、西側は新潟県と静岡県にその境目があります。(ちなみに東側の境目境目はまだはっきりとは分かっていないそうです。)


これも上の動画をご覧になってもらえば分かるのですが、大体1500万年前くらいまではこのフォッサマグナはまだ、現在でいう関東の下側に潜り込んでいて、日本列島は東西にスッパリと分かれていたそうなのです。


創期ヤマトマスの内、A1グループから進化したヤマメ(グループB)は主に日本海側と九州各地にパラパラと散在的に生息していて、


A2グループから進化したヤマトマス(グループC)が中央構造線やフォッサマグナ周辺に主に生息している、


これはまるで海釣りにたとえると、比較的ノンビリ砂浜に広く分布してるシロギスと、積極的に泳ぎ回り、岩場や人工的なストラクチャーに付くのを好む青物の違いに似ているような・・・(ちょっと強引ですね)。


今回はここまでです。次回、グループD・E・Fのお話しでこのシリーズはいったんおしまいです。


ここまで読んでいただきありがとうございました。また次回をどうぞお楽しみに。


(文・写真 KUMOJI)



<出典>

米良鹿釣倶楽部

米良鹿釣倶楽部は、釣りを通じてトラウトの学術研究に対する協力および漁協活動の支援を行うNPO法人です。

0コメント

  • 1000 / 1000