一ツ瀬川水系のヤマメ・アマゴたち
人が身体を健康な状態に保つために必要な栄養源は、もちろん「食料」です。
では、精神を健やかに保つための栄養源は?
この問いに対しては、人それぞれ色んな答えがあるかもしれませんが、その1つによく「芸術」が挙げられます。
しかし、たまにテレビなんかを見ると芸術の美しさそのものを詳細に解説するのではなく、「なんと!ン百万円です!!」というようなある種投資の対象・金持ちの道楽として見なす風潮もあったりして、そんな時は何だかさびしい気持ちになります。芸術とは本来そんな下衆(ゲス)なものではないはず。
音楽や文学、陶芸や絵画の持つ美しさ・芸術性を理解するには、大抵の場合お金なんてものはそれほど必要じゃない。
それよりも、興味・関心を持ち続けて聴き、読み通し、見続けること。そしてそれらを深く理解しようと探求することが大事で、またそういう行為自体も純粋で、芸術同様美しいものです。
振り返って、魚釣りという行為自体がはたして芸術の仲間なのかどうかはよく分かりませんが、私たちが日頃接しているヤマメやイワナたちの美しさは、まさしく芸術的です。
ジムニーやパジェロミニのような軽4駆で崩落しかけの荒れた林道をガタゴトガタゴトと走り、道なき道を歩きながらに川に向かい、ジットリと汗ばんだ身体でタックルをセットしながら釣り上がる、、、
なんて苦労も、こんな艶(あで)やかなヒレに出会えればあっという間に喜びに変わります。
また、上の写真の魚が釣れた谷から山を1つ2つ越えたところでは、こんな魚に出会えます。
直線距離では10kmちょいしか離れていないのに、体色のベースは山吹色とゴールド。小さめのパーマークがビッシリと並ぶ体側。
1つ上の魚とは全く違うデザインと色彩。
この谷のヤマメには遺伝学的に大変珍しい種もいます。
基本的にはグループD(九州ヤマメ)が多く確認されている谷で、一部にはグループA(創期ヤマトマス)も見られます。
この魚は上の写真と比べると、体側のパーマークが大きく、側線上のオレンジが鮮やかです。
実は、上の魚たちがいる川の支流です。ほんの山1つ越えただけの場所で全然違う輝きを魅せてくれます。
遺伝的にも上の写真の谷には今のところ確認されていないグループC(ヤマトマス)がいて、グループA(創期ヤマトマス)も見られます。
芸術的で多彩な模様と色彩を見せてくれる渓流魚たち。
彼らは遺伝学的に見てもその豊かな多様性を示してくれています。
実は今回の記事にある写真は全て、宮崎県の中央部を横断するように流れている2級河川、一ツ瀬川流域で撮ったものです。
昨年、私たちはパタゴニア環境助成金プログラムの助成をいただき、一ツ瀬川流域の支流、ほぼ全域を調査し、採取したサンプルは岩槻研究室で遺伝子解析を行い、ヤマメたちの遺伝学的な分布状況の概要を明らかにしました。
芸術的な美しさを持つ彼らに興味・関心を持ち続け、何日も何日も色々な支流に通い、研究室では慎重に遺伝子解析を行い続け、1年がかりでたどりついた結果です。
そして次のステップは、今回の研究結果を基にしていただき、一ツ瀬川流域に生息する在来のヤマメたちを守り、その生息環境の保全を行うこと。
そのために欠かせないのが、地元の内水面漁協協同組合のご理解とご協力です。
実は先週、6月4日(土)に西米良村役場を会場に、一ツ瀬川流域にある3つの内水面漁協の役員の方々と西米良村役場の担当者の方々に集まっていただき、調査結果の報告会を行いました。
約1時間、先生の熱のこもった報告の後、質疑応答が行われ、先生の情熱は確かに漁協と役場の方々に伝わったように感じられました。
早速いくつかの具体的な話しも出てきていて、今後の展開が楽しみです。
確かに、在来魚の保護、生息環境の保全も大事ですが、同時にこの日集まっていただいた内水面漁協の運営も盛り上がっていかないと一ツ瀬川流域に生息する在来のヤマメたちの保護・保全活動を行うこと自体が難しくなります。
魚類研究と漁協運営、この両方のサポートを行うことは私たち米良鹿釣倶楽部が自分たちに課しているミッションそのもの。これからも楽しみながら頑張っていきます。
そしていつか、この川での取り組みが全国のモデルケースとしてご紹介出来るよう皆で考えてゆきます。
この豊かな自然がはぐくんだ芸術たちを未来まで残すために。
(文・写真 KUMOJI)
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