九州渓流魚シンポジウム 2022 in 串間
私ども米良鹿釣倶楽部はこの度、「ふるさとの水辺環境を守る会」及び「串間市淡水漁業協同組合」との共催のもと、2022年3月5日(土)に「九州渓流魚シンポジウム2022in串間」を宮崎県串間市で開催いたしました。
このようなシンポジウムの開催は、設立して2年に満たない当倶楽部にとっては、初めての試み、まさにキックオフイベントです。
しかも、場所は宮崎県の最南端に位置し、温暖なことで知られる串間。この場所で渓流魚のシンポジウムとは、違和感を覚える方も多いと思います。
串間市には、福島川(上流部は川の名前を変えて大矢取川と言います)が南北に貫流しています。
この川の源流部で宮崎大学の岩槻教授が、日本最南限の在来ヤマメの個体群が生息していることを発見し、発表したのは2017年のことでした。
ちなみにその時の調査では、この貴重なヤマメたちは百数十尾しか確認できませんでした。つまり、絶滅寸前、風前の灯という状態です。
危機的な状況にある彼らを次世代に残すためには、どのような方策があるのか、課題は何なのか?このような問題意識のもとに、私たちは、このシンポジウムを開催することを計画しました。
冒頭、主催者挨拶をふるさとの水辺環境を守る会の河野幸子会長から、
来賓挨拶を島田俊光串間市長からいただきました。
続いて、串間市淡水漁業協同組合 瀬口俊郎組合長による事例報告。。テーマは「福島川の魚類保護の現状と課題」。
続いて、4人の専門家による事例発表。いずれも当代屈指の渓流魚のオーソリティーたちです。
一番バッターは岩槻幸雄宮崎大学教授。
テーマは「日本最南限の在来ヤマメの発見と生息実態」です。日本最南限の在来ヤマメを発見するに至った経緯や証明の方法、今後の保全のあり方を熱く語っていただきました。
次に登壇いただいたのは佐藤成史氏。
日本を代表するフィッシングライターにしてフォトグラファーです。テーマは、「釣り場作りと釣り人の役割・・・群馬県上野村漁業協同組合における先進的ゾーニング 釣り人と共に歩んだ20年」。
20年以上前からゾーニングによる釣り場管理に着手した群馬県上野村漁協を例にゾーニング管理の実際を紹介していただきました。
次の発表者は坪井潤一氏(国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産技術研究所)です。
テーマは、「渓流魚を守るために必要な場所は?」。
豊富なデータと現場感覚に基づき、渓流魚が生き残る条件について示唆に富むお話がありました。特に、支流は隠れ場の多さと多様な流れによって高い生存率を示しており、渓流魚を保全するためには、支流が極めて重要であるとの考察はとても印象深いものでした。
最後に、川嶋尚正氏(静岡県自然環境調査委員会淡水魚部会長)に登壇していただきました。
テーマは、「大切な生物資源を守るには」。静岡県の例を引き合いに、生物資源保全の3つの切り口(①漁業資源としての保護、②希少生物としての保護、③文化財としての保護)について、豊かな知見をもとに刺激的な論考を示されました。
その後は、パネルディスカッションの時間となりました。
岩槻幸雄宮崎大学教授をコーディネーターにお願いし、参加者の皆さんの質問にパネラーの方々からコメントしていただくという形で進められました。いわば、双方向型のトークセッションと言えるでしょう。
参加者から日本最南限のヤマメの保全という観点から、保安林等森林環境、希少生物に関する情報開示など幅広い問題が提起されました。
このシンポジウムでは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、参加者の総数を抑制せざるを得ませんでしたが、総勢40名以上の方々が出席されました。
宮崎県内からの参加者に加え、福岡県や熊本県などからもご参加いただくとともに、釣り人、内水面漁協組合員、渓流魚研究者、地域おこし関係者、行政関係者など幅広い分野からのご参集がありました。参加者の皆さんにあらためて感謝を申し上げたいと思います。
また、参加者から貴重なメールをいただきましたので、その一部をご紹介します。
「学術的な話だけでなく、国や自治体、組合の視点からどう保護と活用を推進していくかという、現実的な話もあり、大変勉強になりました。」
「今回のシンポジウムでは、想像以上に中身の濃い、非常に良いシンポジウムだったと率直に実感した次第です。もちろん、これは、岩槻教授を始め関係皆様のこれまでの精力的な活動の成果でもありますし、それに加えて内水面と遊漁両方の知識と経験に優れた日本でも数少ない方々をパネラーとしてお呼びしたことも成功の要因であったかと思います。」
当倶楽部にとってキックオフイベントとなった今回の試みは、今後の活動に大きな弾みとなりました。
これから釣り人、研究者、内水面漁協と連携して渓流魚とそれを取り巻く自然環境を保全する活動を強化していく必要があると考えます。
また、今回のシンポジウムを一過性のものとして終わらせるのではなく、地域の内水面漁協や地域住民の方々と連携して渓流魚の保全について考え、議論する場を創出していきたいと思います。
最後に、今回のシンポジウムは、多くの機関・団体・企業・個人の方々からのご後援・ご協賛により開催することができました。心から感謝申し上げますとともに、今後ともご指導、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。
(文:榎木葉三 ※当倶楽部 理事長 写真:その他会員一同)
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