びび(ヤマメ・アマゴ調査釣行記4)

私たちのメンバー大半が住んでいる宮崎県では、魚類全般をことを、


「びび」

と呼ぶ地方があります。

この呼び方、どちらかと言えば赤ちゃんや幼児ことばで、「びびしゃん」なんて使い方もされます。

全国津々浦々に種々雑多な方言がありますが、例えばこんな

「あそこん水槽にはびびしゃんがてげおるっちゃが。」

という宮崎弁は、

「あそこの水槽にはおさかなさんがたくさんいるんだよ。」

という感じの意味になります。



(9月下旬 シルバーウィークのとある1日)


ところで、我々が行っている調査釣行というものはまぁ大抵マニアックで、水量が少なくて、たどり着くまでに苦労させられるようなポイントに行くことがほとんどです。


1つの大規模河川の支流一つ一つを調査していくこの作業は、まるでジグソーパズルのピースを一個ずつ埋めてゆくような、逆さまにしたトーナメント表を1つずつ登ってゆくようなもので、楽しいけれど気の長いものです。

また、当然ハズレの川も多く、こうやって記事に出来るのは何かしら良いことや面白いことがあった日で、そうじゃない日は小さいのばっかりだとか、時には全く魚がいない沢を延々と歩くだけの日だってありました。


そしてこの日もそんなハズレの1日だと思っていたのです。


初めは。

この日、釣り始めてからしばらく、数百メートルは何の反応もありませんでした。


「イヤだなぁ。もしかしてハズレかなぁ。」


「もしそうだったらどうします?」


「○○谷に移動しようか。」


そうこうしてる内にやっと1匹。小さいけれど初めての場所の初物はやっぱり少し違います。


まだまだ夏の香りが残るモミジの葉っぱを添えて撮影したりしたのも、もしかしたらこの日がたいして良くない日になるんじゃないかという不安の裏返しです。

要するにブログやSNS用のネタ作り。

それもしょうがないことで、この日の源流は、大きな岩が少なく、砂に埋まったチャラ瀬がほとんど。


水量も少なくて、とても期待できるような感じではありませんでした。


この日も一緒だったBORAヤンも半ば諦め気味でGPSアプリを見ながら、


「もう、この橋のとこまでチャッチャとやってしまって次の川に行きましょう。ここはちょっと厳しいですよ。」

と言います。

もちろん、DNAサンプルを取るのが目的ですから大きさは関係ないのですがその以前にあまりにも数が釣れなかったのです。

「またこんな日かぁ…。」

自嘲気味に笑いながら歩を進めると、なんだか少し川の雰囲気が変わったような気がしました。

すると突然、BORAヤンが「フォ〜‼︎」とも「ウォーッ‼︎」ともつかない奇声を発します。

見ると彼の足元でグッドサイズが派手な水しぶきを上げています。駆け寄ってマジマジと眺めるとそれは体側のオレンジが本当に本当に美しい一尾。

そこからほんの100メートルもない短い区間、キャストするポイントポイントで立派なヤマメたちがルアーに狂ったように飛びかかってきます。

私たちは2人して、

「エーッ⁉︎ エーッ⁉︎」

とか、

「何で? 何で⁉︎」

とか、

「パラダァーイッス‼︎」

などと言葉にならない言葉を叫び続けました。

あそこでも、ここでも。

カッコいい美男、うるわしい美女たちのオンパレードはしばらく続き、


クライマックスはこの美男子。


釣行する度に、魚のいい写真を撮るということが1番の目的である私にとっては最高の瞬間でした。

ハズレも多いこの釣り。たまにこんなことがあるからやめられません。

釣ったアングラーをまるで幼子(おさなご)のように喜ばせてくれた美しい彼ら。

個人的に、勝手にですが、こんな渓流魚に出会えたら今度から美魚(びび)と呼んでみようかな、と。

例えば、「今日のヤマメたちはホント、美魚ばっかりだったねえ!」みたいに。

そしてこの宮崎弁を全国的に流行らせて、、、(流行らないか)。


※この調査は、パタゴニア環境助成金プログラムの一環として行われました。
(文・写真 KUMOJI)

米良鹿釣倶楽部

米良鹿釣倶楽部は、釣りを通じてトラウトの学術研究に対する協力および漁協活動の支援を行うNPO法人です。

0コメント

  • 1000 / 1000