Fin(ヤマメ・アマゴ調査釣行記2)

「で、何年くらい付き合ってきたの?」

「んー、2年くらいですかね。」

「東京から一緒に帰ってきたんでしょ?」

「そうですねぇ。」

「お別れか。」

「さびしいけど、しょうがないですね。」


5月のとある休日、釣り場に行くまでの車中のやり取り。

会員のフジくんが付き合ってる彼女との話し、、、ではなくて。


彼の愛車、ジムニーのお話し。


この日は事情があって買い換えなくてはいけなくなったこの車のラストフィッシング。

オーナーも、ジムニーもお互い愛おしそうにも、さみしそうにも見えます。

昨年、東京からこの車で陸路はるさんばる宮崎に帰ってきたそうで、思い入れもひとしおのよう。



この日は、まだ行ったことのない区間の調査釣行。


まぁ、案の定と申しますか、目の前に立ちはだかる50mクラスの滝の脇には道がなく、ツルツルすべる広葉樹の枯葉にビクつきながら絶壁を高巻き。

こんな釣りをあまり経験したことのない(元)都会っ子のフジくん。

難所をどうにかこうにかクリアした後、私をうらめしそうに見ながらひとしきりクレームをぶつけてきました。


ここを管轄する漁協の方からあらかじめ放流箇所は聞いていて、このポイントには放流がないことは事前に確認済みです。


また、こんな難所に自主放流、なんてのも考えづらく、ヤマメ(※ここでは仮に「ヤマメ」とします。)がいればきっと在来。

果たして、いるのか、いないのか。


最初の数百メートル、全く反応がない区間が続き、2人して、


「マジかよ・・・。」

と青ざめましたが、しばらく遡行すると、それはそれは美しいヤマメたちが顔を見せてくれました。

熱帯魚好きでもあるフジくんが、アクリルケースに入れたヤマメを見て言います。

「体の割にとにかくヒレがデカいですよね。」

「うん。それもだし、背びれの上側が丸く、スポット的に白くなってるんだよね。ここの魚はこんなのがとても多い。
なんか遺伝的な特徴と関係があるのかな。」


よくよく見るとサイズの割に上唇が大きく下に伸びた、いかつい顔をした個体が多い。

もしかしたら、水量が少ないこのエリアで大きくなることなく老成化してきたのかもしれません。

こんなことを妄想できるのも調査(冒険?)釣行の楽しさ。

トラウトフィッシングの楽しみはサイズだけじゃありませんね。


その後、アクリルケースを透過した太陽光が岩に虹を描き、


こんな、水がほとんどないような場所まで遡行しても、まだヤマメたちの姿はありました。

(元)都会っ子の彼も、こんな釣りをすっかり気に入ってくれたよう。


この日1番の美形ヤマメ。


大きな黒点の下にレイヤリングされたパーマーク。

側線上にはにじんだ朱点も見えます。

サイズはたかだか18㎝くらい。


それでも、こんなにいかつい顔。下唇はうっすらと黒ずんでいます。

ずっと見ていても飽きることがないその姿は、まさしく自然の芸術作品のよう。

この日釣れてくれたヤマメたちは、GPSアプリで採捕ポイントを写真とともに正確に記録し、申し訳ない気持ちでアブラビレを切除しました。

もちろんその後は全て元の場所にリリース。

普通の釣りと比べるとかなり手間が掛かりますが、これは調査なのでしょうがありません。

フジくんとジムニーとのお別れ(Finale)。


谷奥に息づくヤマメたちの大きなヒレ(Fin)。


2つの"Fin"に彩られた一時(ひととき)。

多分、ジムニーにとっても思い出深い1日になったことでしょう、

これから先は岩槻先生の出番。

果たして彼らの遺伝子タイプは?



※この調査は、パタゴニア環境助成金プログラムの一環として行われました。


(文・写真  KUMOJI)

米良鹿釣倶楽部

米良鹿釣倶楽部は、釣りを通じてトラウトの学術研究に対する協力および漁協活動の支援を行うNPO法人です。

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