ヤマメ・アマゴなどについて
「朱点の”ある”ヤマメもいるし、朱点の”ない”アマゴもいる。」
長年釣りを趣味として嗜(たしな)んでこられた方ほど、このことを聞くと「?」と首をかしげるかもしれません。
そもそも、在来(放流魚ではなく、昔からその土地に生息していた種)のヤマメは、一般的に関東地方より北の太平洋岸と日本海側の全域、それと瀬戸内海に面した九州の一部を除く地域に生息し、逆に在来のアマゴは、神奈川県西部より西の本州太平洋岸、四国、九州の瀬戸内海側河川の一部だと言われています。
要するに人の手による放流がなければ、かなりくっきりとした線引きでヤマメとアマゴは住み分けしていた、と。
そして、ヤマメとアマゴの区別はその体表にオレンジ色の点があるかないかだ、と。
今の日本に常識として流布(るふ)しているこの考え方の根拠を、皆さんご存じでしょうか。
実はこれら全て、今から63年前、1957年(昭和32年)にとある大学教授が発表した学説が基になっているのです。
もちろん当時は、今と違ってDNA解析など全く出来ない時代です。21世紀初頭、果たしてこの考えは今のテクノロジーに照らしても変わらない真実と言えるのか?
国立大学法人宮崎大学の岩槻幸雄農学博士はこのことに対して、長い年月をかけ、多大な情熱をもって全国のDNAサンプルを集め、現代の技術を用いて分析し、一つの学説を提示されました。
そして幸運にも私たちは、その詳しい内容をこのサイトで順次ご紹介させていただけることになりました。
その内容の核心部。私たち釣り人にも分かりやすい、そしてちょっとビックリするような内容。
それがこの冒頭に揚げた、
「朱点の”ある”ヤマメもいるし、朱点の”ない”アマゴもいる。」
ということと、
ヤマメ(サクラマス)、アマゴ(サツキマス)、そして琵琶湖に住むビワマス。よく知られているこの3種以外に、「創期ヤマトマス」、「ヤマトマス」、「九州ヤマメ」という新しい3つのグループが示されたことです。
またその合計6つのグループの分布域も、今語られているようなハッキリ・クッキリと線引きが出来るものではなく、かなり入り組んでいるということも分かってきたようです。
果たして「創期ヤマトマス」、「ヤマトマス」、「九州ヤマメ」とはどんな魚たちか。
そこから見えてきたのは、100万年以上前までにさかのぼる日本列島の成り立ちと彼らの祖先の営みでした。
しかしながら、教授はこうもおっしゃいます。
「今までどおり朱点があればアマゴ、なければヤマメと呼んで差し支えはないのです。ただし、遺伝系統や交雑を考えるならば、この考え方は正しくないかもしれません。」
「遺伝系統の特徴が分からないと、どこに、どの種のヤマメたちがいたのかも分からない。となると、日本各地でそれぞれ行われるべきその土地のヤマメ・アマゴなどを増やしたり、守ったりすることも出来ないのです。」
「ヤマメはヤマメ、アマゴはアマゴ、それだけでいいじゃないか。ずっと昔からそう呼ばれてきたのだから。」
もしかすると中にはそうおっしゃる方がいらっしゃるかもしれません。
しかしパーマークの形状や数、黒点の付き具合等から類推される教授のヤマメ・アマゴたちの談義はそれだけで相当楽しいものになりそうです。
諸々含めて、どうぞこれからをお楽しみに。
また、私たち倶楽部の活動を行うこの九州地方、実はヤマメ・アマゴたちの遺伝子の宝庫なのだそうです。
先程申し上げた、「ヤマメ」「アマゴ」「ビワマス」「創期ヤマトマス」「ヤマトマス」「九州ヤマメ」の内、ビワマス以外の5グループが九州地方に生息しているといいます。
これは日本列島の他のどの地域よりも群を抜いて多く、その遺伝的多様性の原因として考えられることが後々明らかになるかもしれません。
いずれにせよ、私たち釣り人に出来るのは、山奥深く分け入り、出会えたヤマメ・アマゴなどの遺伝子サンプルをほんのちょっぴりもらい、美しく写真を撮り、元の流れに戻すこと。
そして教授にサンプルとデータを送り、楽しみにその結果を待つこと。
そんな釣行の様子なども、研究のご紹介とは別に、これから随時アップしてゆくつもりです。
どうぞよろしくお願いいたします。
(文・写真 KUMOJI)
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