ひなたの三平プロジェクト in 上小丸川

イベントの前日、準備が終わり、岩槻教授とbrassburnerと私の3人で泊まった旅館でのこと。


夕食の時、普段から鮎釣りが大好きだという女将さんが私たちのテーブルにいらっしゃり、ひときわ楽しそうに釣り談義をしてくれました。


「(スマホの動画を見せてくれながら)今日はこんなに鮎が釣れましたよ、ってメールで送ったりするんですよ。」


「私は釣りに来てくれるお客さんにお茶を届けたりしながらお話しするのが大好きで~。」


「(旅館の)目の前でこの前大きなヤマメを釣ったって夏にお客さんが教えてくれましたよ~。」


食事の前に温泉に浸かり、アルコールでほどよくほどけた私たちに優しく、少し情熱的に語りかける女将さんの口調は、まるで宿の前をサラサラと流れる小丸川の清流にも似て、とても心地良く耳に響いてきました。


「ところで、明日はどんなことをなさるんですか?」

と女将さん。


「あ~、地元の子どもたちを集めて、川の生き物を採ったり、地元の魚たちを見せたりするイベントです。」

説明すると、急に彼女の目の色は変わり、真剣そのもののまなざしで。


「あぁ!もう、ぜひそんなことをどんどんやってください!最近はこの辺りの子どもたちもスマホとかゲームばっかりで、なかなか川に行かなくなってしまって。」


「自然に触れればきっとその楽しさを分かってもらえるんですよ。私の孫なんて帰省するたんびに川泳ぎがしたいってせがむんですから。」


他にも、カワウの被害に困っている話し、川自体が年々浅くなっていく話しなどをしてくれたその言葉からは、地元の川への愛情とその将来を心配する想いがひしひしと伝わってきました。



日本人ならおそらくほとんどの人が知っているであろう唱歌、「故郷(ふるさと)」の冒頭、


「うさぎ追いし かの山

 こぶな釣りし かの川」


こんなのどかな歌詞がよく似合う宮崎県 美郷町 南郷区を流れる小丸川上流部。

ここで先月、11月20日に「ひなたの三平プロジェクト」を行いました。

このイベントは宮崎県の補助事業の1つである「水辺の活動応援事業」の助成団体として私どもが認められて実施するものであり、魅力ある川づくり・海づくりを推進し、河川・海岸への関心を高め、愛護意識の醸成に資する取組みを行うためのものです。

元々は、9月に開催予定だったこのイベントも台風14号による影響でやむを得ず何度か延期し、その度に色々な調整をし、やっとのことで開催することが出来ました。


また、この日集まった米良鹿釣倶楽部のメンバーは、地元のKIDを中心に、岩槻教授、遠く福岡から来てくれたbrassburnerとフジ、そして私。


それから、10月に行われた西米良村のイベント等で佐藤成史さんやパタゴニアの方々と親しくされ、新しく私たちのメンバーになってくれた"Mack"さんと、


"VOLVO35"さんの総勢7名。


これに対して参加したのは小学生以下の子どもたち10名とその親御さんたち多数。

夏前から少しずつ準備を進めてきたこのイベント、雨予報で心配された天気も当日には快晴となり、ほっと一安心で本番を迎えることが出来ました。


準備した生き物たちは、KIDが米良鹿とは別に研究活動を行っているウナギ。


当日は子どもたちに1番人気でした。


大水槽にはヤマメ、カワムツ、タカハヤ、オイカワにウグイや、ランカーサイズのカマツカなんかも。


このモクズガニたちは小丸川下流部からのゲスト。
(上小丸川エリアには在来のものはいないそうです。)

それから、brassburner が福岡から来る途中、わざわざ佐賀県に立ち寄り釣ってきてくれた美しい在来のタナゴたちも文字どおりイベントに華を添えてくれました。

この他にもドジョウやカメなんかもいて、さながら野外水族館の様相。

子どもたちが勢ぞろいし、まず向かったのは山の上の小さな支流。


私たちの中では最年少のKIDも子どもたちからすれば立派な大人。「青いオジチャン!」なんて呼ばれながらも水生生物をまとめたリーフレットと網を渡して説明。

意外だったのは、子どもたちが水の生物に詳しかったこと。


KIDが、
「日本には(在来の)ウナギが何種類いるか知ってますか〜?」
とたずねると間髪入れずに、

「2種類〜‼︎ニホンウナギとオオウナギ〜‼︎」
と大声で即答。

他にも一般の方には難しいであろう水生昆虫の名前も結構スラスラと出てくる子もいてビックリさせられました。

説明が終わり、


「じゃあみんな、採ってみよう‼︎」 


とKIDが号令をかけるやいなや、子どもたちはまるでロケット花火のように川に突撃していきます。


スニーカーが濡れるのなんて全然お構いなし。

日頃私たちが言ってるウェットウェーディングがどうたらとか全く関係ない子どもたちの無邪気さに、終始笑わされっぱなし。

川虫やサワガニを採って大声で喜ぶ子がいたかと思えば、せっかく採った生き物を逃してワンワン泣き出す子もいたり、メンバーも楽しく、一生懸命お手伝いしながら、あっという間に時間は過ぎていきました。


そして採った生き物たちはそれぞれのトレイに入れ、虫メガネで観察。


さっきまでのワイワイガヤガヤはどこへやら。


真剣な眼差しで静かに観察しながらリーフレットと生き物たちを見比べていました。

「青いオジちゃん、この虫はこれ?」


なんてやり取りをしている間に時間はあっという間に過ぎ、メイン会場である森の駅きじのの特設野外水族館へと移動。


それぞれの水槽に入ってる生き物たちを1つ1つ丁寧に説明しながら、好奇心旺盛な子どもたちの質問に答えていくKID。


子どもたちはその話しを聞きつつも、普段見ることのない生き物たちに興奮気味で、特にウナギのぬるぬるした手触りやモクズカニが珍しいらしく、持ち上げたりして遊んでいました。


でも、こんな五感に訴えるような体験って、この時代そうそう出来るものじゃないと思います。


きっと頭で覚える知識以上に手で触ったり、においをかいだりすることは彼らの成長には大事なのではないでしょうか。


最後に岩槻教授もプチ授業を。


DNAのお話しは少し難しかったかな?


また、当日は森の駅きじののお母さんたちからぜんざいを作っていただき、イベント終了後はみんなで美味しくいただきました。


子どもたちは、水遊びで冷えた体を、私たちは事故なくイベントが終わって安心した心をあったかく癒やしてもらいました。


あらためて感謝いたします。ありがとうございました。


全てが終わって参加者で記念撮影。みんないい笑顔でハイチーズ!してくれました。

(3~4人の子どもたちはこの時お昼ごはんを食べていました(^^))。



大人になれば分かることですが、子どもたちの成長って、とても早いものです。

この記事の最初に書いた「故郷(ふるさと)」の3番の歌詞。


「こころざしをはたして

 いつの日にか帰らん

 山は青きふるさと

 水は清きふるさと」


この日集まった子どもの中にもきっと近い将来、美郷町を離れる子もいることでしょう。


そんな時、ここ上小丸川の景色、生き物たちの色や、手触りや、においが心のどこかに残っていれば、立派な大人になった時にふるさとが恋しくなり、戻ってきてくれるかもしれません。


また、そのためにも私たちは彼らが戻ってきた時にここに美しい自然が残されているよう努力しなければなりません。


この日、ほんの少しの時間だったけど、あの旅館の女将さんが喜んでくれるようなことが出来たかもしれない。


だったら、まだ何回でもこんなイベントをやってもいいな。


そう思えた晩秋の1日でした。


(文:KUMOJI 写真:brassburner・KUMOJI)






米良鹿釣倶楽部

米良鹿釣倶楽部は、釣りを通じてトラウトの学術研究に対する協力および漁協活動の支援を行うNPO法人です。

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