九州渓流魚シンポジウム2022 in 西米良
<業務報告>
NPO法人米良鹿釣倶楽部は、西米良漁業協同組合との共催により2022年10月22日(土)に「九州渓流魚シンポジウム2022in西米良」を宮崎県西米良村で開催いたしました。当倶楽部としては、本年3月5日に串間市で開催したシンポジウムに続き、今年2回目の開催となります。
開催地である西米良村は、一ツ瀬川の上流部に位置し、ヤマメを求めて九州全域から多くの釣り人が訪れます。宮崎県では、椎葉村と並んでヤマメ釣りのメッカとなっています。
一ツ瀬川は椎葉村の尾崎山(1438㍍)に水源を求めることができます。途中、板谷川や小川川、銀鏡川、三財川を合わせ、日向灘に注ぐ、全長88kmの二級河川です。地元の漁協によりヤマメの放流が活発ですが、いくつかの谷には在来ヤマメが生息しています。
米良鹿釣倶楽部は、2021年にパタゴニア環境助成プログラムからの助成を得て、一ツ瀬川を対象にヤマメの遺伝的系統の調査を実施しました。この調査について、2022年6月4日にその結果を一ツ瀬川に漁業権を設定している西米良漁協、椎葉村漁協、一ツ瀬川漁協の皆さん方に報告しました。
その報告会で、一ツ瀬川の在来ヤマメの重要性を漁協、釣り人、行政関係者、地元の方々が共有するため、意見交換の場を持ったらどうかという提案がなされました。加えて、魚に親しみ、魚を愛する子どもたちを増やすことも重要であるとの意見も提出されました。
このような提案を受け、西米良漁協と当俱楽部は、シンポジウムとフィッシングスクールの開催へ向けて協議と準備を開始しました。
ところが、9月中旬に宮崎県を直撃した台風14号は各河川の源流部に大きな被害をもたらしました。とりわけ、一ツ瀬川流域では路肩決壊により道路が寸断され、孤立した集落もありました。
いつもは清らかな水が流れる一ツ瀬川も、台風が去って1か月が経過した後も濁りがとれずフィッシンスクールの会場を変更せざるを得ませんでした。また、シンポジウムに申込みをされた方の何人かは災害復旧業務に従事するため、参加をキャンセルされました。
こうした厳しい状況の中でどうにか開催に漕ぎつけたシンポジウムでした。
まず、開会前に米良鹿釣倶楽部制作による一ツ瀬川のヤマメの動画放映。一同ワクワクしながらこの動画に見入りました。
シンポジウムの開会にあたって、西米良漁業協同組合 組合長 甲斐法長氏から主催者挨拶と事例報告をいただきました。
事例報告のテーマは「西米良漁協の取り組み」。甲斐組合長は、児原稲荷神社の宮司のかたわら、漁協の組合長を務められています。川釣りは、鮎、渓流魚などあらゆるジャンルに精通したオールラウンドプレーヤーです。
事例報告の中では、西米良村全域にキャッチアンドリリース区間を設定したいとの抱負を表明されました。この全国でも稀有な取り組みを注視したいと思います。
続いて、シンポジウムです。
まず、渓流魚のオーソリティーたちによる事例発表。
最初の登壇者は岩槻幸雄宮崎大学教授です。テーマは、「宮崎県一ツ瀬川全域のヤマメ(Oncorhynchus masou masou )の遺伝系統―在来系統の渓流魚保全と遊漁の活性化―」です。2021年の一ツ瀬川を対象とした調査を踏まえ、今後の在来ヤマメの保全と遊漁のありようについて示唆に富むお話をいただきました
次の発表者は佐藤成史氏。我が国屈指のフィッシングライター・フォトグラファー。
テーマは、「これからの釣り場つくり~環境保護と漁協の役割」。
具体的なデータを使って漁協の現状や先進的な漁協の取り組みについてご紹介いただきました。シンポジウム終了後、数人の参加者が同氏のもとに「瀬戸際の渓魚たち」を手に駆け寄り、サインを求めていました。
最後の発表者は、小倉隆平氏(パタゴニア・インターナショナル・インク日本支社)です。
テーマは、「日本各地の釣りに関わる環境保全、回復活動の課題と未来」。同氏は、「釣りビジョン」の「フライギャラリー」に出演し、楽しい釣り旅を視聴者に提供されておられます。
事例発表では、自然環境保全へのパタゴニアの取り組みの紹介や私たちが釣りをすることについて示唆に富むお話をいただきました。
事例発表の後は、パネルディスカッションです。コーディネータは岩槻幸雄宮崎大学教授、パネラーは佐藤成史氏、小倉隆平氏のお二方です。3月の串間市でのシンポジウムと同じく、双方向型のトークセッションと言った形で進められました。
在来ヤマメの保全という共通認識のもと、参加者の皆さんからは、在来ヤマメの判定、森林環境の保全など多岐にわたる論点が提起されました。
今回のシンポジウムには、九州各地のみならず、長野県や広島県から総勢60名以上の方々の参加をいただきました。
釣り人、内水面漁協組合員、行政関係者など幅広い分野からのご参集がありましたが、特に釣り人の割合が大きかったのが今回の特徴だったと思います。今後は、釣り人や漁協関係者の交流の場を設けることも必要だと感じました。
また、翌日の10月23日には秋晴れの下、小学生や初心者を対象に、ルアーとフライを学ぶフィッシングスクールを開催しましした。(フィッシングスクールについては別のページで詳細を報告しています。)
2日間にわたったシンポジウムとスクールはまさに「渓流魚フェスティバル」の感がありました。
各地の渓流魚を愛する釣り人たちが集い、語り合うとともに、自らの釣技を少年少女たちに伝える。こうして釣り人の輪が広がり、在来ヤマメの保全につながっていくことを確信しました。
最後に、今回のシンポジウム及びフィッシングスクールは、多くの機関・団体・企業の方々からのご後援・ご協賛により開催することができました。
特に、日本フライフィッシング協会の皆さまにはシンポジウムに積極的にご参加いただくとともに、フィッシングスクールでは献身的にご指導いただきました。皆さま方には心から感謝申し上げますとともに、今後ともご指導、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。
(文:榎木葉三 ※当倶楽部 理事長 写真:KUMOJI)
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