上小丸川ラプソディ

「どうですか?釣れましたか?」


「いやあ。数は出るけどね、8寸がなかなか遠いね・・・。」


なんだかここ最近は彼とこんなやり取りが多かったように思います。


ただ、休日の楽しみ方は釣果だけとは限らないものです。



渓流釣りの宿命というか、ジレンマというか、フィールドが人でにぎわえばにぎわうほどにヤマメのプレッシャーは進行し、なかなか釣れなくなってゆくものです。


せっかくの休日。やっぱり最近誰も入っていないようなポイントで釣りをしたいというのが人情ってもの。


この日の私もそんな企みで、あんまり他の人が入らなさそうな下流部から入渓。


ここよりずっと下流にあるダムからの遡上魚を狙って、慣れないフライロッドをヒュンヒュン振り回しながら、えんえん誰の足跡もない川辺を歩きます。


数時間、数キロ歩いた結果は、、、見事な空振り三振。


「どうじゃった??」


「いやあ、釣れませんでした。でも、晴れた河原を1人でのんびりと歩くのもいいもんです。」


ここ、美郷町に古くから伝わる百済王伝説。そんな太古の王族をモチーフにした銅像が川べりにひっそりとたたずみ、何だか私に話しかけてくれたような気がしたので、思わず彼らの足元に張った古い蜘蛛の巣をキレイに取ってあげました。


釣れる、釣れないはもちろん釣り人の腕が大事だけど、実は多くの場合、時の運次第。


せっかく空気のキレイな山里に来たのです。あまりカリカリせずに観光半分で少しブラブラすることにしました。


以前から一度訪れたいと思っていた古民家のそば屋さん。


のれんをくぐると人なつっこいおばあちゃんがニコニコと出迎えてくれました。


「釣りん来やったとね~?(釣りに来たんですか?)」


「こん前もやっぱヤマメ釣りの人が来てね~。おっきなつ(大きいの)釣ったって言っとったよ。」


冷たい麦茶をいただきながら、明るい笑顔に心が温かくなります。


ほどなくして出てきたお蕎麦は宮崎名物でもある地鶏から取ったというコクがある濃厚なダシに上品な塩味。


薄切りにされたゴボウと太めの麺が絡みあう一品。


街中のチェーン店では決して食べられない野趣あふれるその味。あっという間にダシまで全部平らげてしまいました。


このお店。朗らかなおばあちゃんとおじいさんが2人で営んでらっしゃるとのこと。


たまにはカップラーメンじゃなくて、こんな昼ご飯もいいもんです。



それからKIDに連絡すると、忙しい仕事の合間をぬってほんの少し付き合ってくれるとのこと。


いつも待ち合わせ場所にしている森の駅きじので彼を待ちます。



ここは、釣り人にとってはありがたいきれいな水洗トイレやジュース自販機もあります。


また、時間帯によっては売店でお土産なんかも売っています。


以前、ここで買って食べた柏餅(かしわもち)は美味しかったなあ。


橋の上からブラブラ歩きながら小丸川を眺めているとKIDの車が。


「ワンチャン、あそこでも行ってみますか?」


「お!いいね!ワンチャン行こうワンチャン!」


大体こんな時にワンチャンが上手くいくことなんてほとんどなくって、空元気のことが多いんだけど、そこはやっぱり釣り好きの性(さが)。


それと美郷町の人々の温かさというか、KIDにしたってわざわざ仕事の時間を割いてまで付き合ってくれます。折角だからここで一丁!なんて気分にもなります。



ところが、、、




本流の対岸にある岩盤にクロス気味にキャスト。ミノーのレンジが上ずらないようにアクションを加えながら扇形にドリフト&リトリーブ。教科書によく書いてあるような釣り。


するとあっけなく、「ドス!」と渓流用のロッドが根元からひん曲がって、銀色の大きな魚体がグリングリンと目の前でローリングします。



ワンチャン尺ヤマメ、大成功です。


こんなこと、本当にあんまりないんです。KIDに感謝感謝のメモリアルフィッシュ。


もうこの1匹でこの日はコンプリート。十分満足です。


KIDと別れた後、疲れと汗を流すために地元の温泉に入って帰ることにします。


丘の上にあるこの温泉、眺めも泉質も上々。

トロトロの美肌の湯で、女性にもおすすめです。



この日はたまたま上手くいったけど、魚釣りは釣れない日があるから釣れた日のありがたみが分かるってもの。


せっかくの休日なんです。釣りだけじゃなく、地元の方々と触れ合い、温泉やグルメなんかを通じてその地域の経済に少し貢献するのも釣り人として粋なことだと思います。


今度の休日、まだ行先が決まっていない方はどうぞ上小丸へ。


(文・写真 KUMOJI)






米良鹿釣倶楽部

米良鹿釣倶楽部は、釣りを通じてトラウトの学術研究に対する協力および漁協活動の支援を行うNPO法人です。

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